親愛なるあなたへ
厨房で料理を作る仕事をしています。
コックは、「段取り」が命です。
ランダムに注文されるメニューを調理することも段取りですが、食材の準備、器具のセット一つとっても、全て段取りです。
食材が切れたり必要な器具がそろわないと、調理を始めることすらできません。
一度使用した調理器具は洗浄しなければならないので、ひと手間増えます。
厨房のスペースには限りがあるため、下ごしらえできる食材量に上限があり、おまけに人とすれ違うときも阿吽の呼吸が必要となります。
ゆっくり調理だけしていればメチャクチャ簡単ですが、料理の仕事というのは時間との勝負です。
どんなに繊細に作ったり、時間をかけてじっくりじっくり作っている料理でも、常に時間とにらみ合いをしています。
「朝の1分って大事だよね」なんて悠長なことを言っている場合ではありません。
コンマ数秒の世界です。
1秒遅れたら、歯車が狂いだします。
お客様へお出しする時間、食材の鮮度の時間、焼いたり煮込んだりする時間など、段取りに組み込まなければならない「時間」が山のようにあります。
一番大切にしなければならないのは、お客様の時間です。
サービス業は、お客様の大切なお時間を頂戴してサービスを提供しているのです。
僕は、店長に毎日段取りのことで厳しく叱られています。
今日店長が「お客様が待っているんやで!自分が待たされたらどんな気分や!!」とおっしゃったことで、ハッとしました。
自分の仕事の段取りのことしか考えていなかったな、と気づいたのです。
僕は、次の人が使いやすいように、そして、次のラッシュにも間に合うように準備をしながら調理をしていました。
それが段取りだと、思い込んでいたのです。
しかし、結果的にタイムロスでお客様への料理の提供が遅れてしまいました。
大切にしなければならないのは、今、目の前にいるお客様です。
未来のお客様ではありません。
未来に来ていただくための努力は必要ですが、今いるお客様を決してないがしろにしてはいけないのです。
外から見る分には「なんだ、当たり前じゃないか」となりますが、実際に戦場の現場に放り込まれると、ものすごく視野が狭くなります。
僕は、「今」のお客様に目を向けていませんでした。
サービス業は、お客様が利用してくださることで成り立つ職業です。
店長は独立していらっしゃるので、その覚悟を持って僕を指導してくださいました。
僕はこれから、「今」のお客様、そして、お客様の「今」を、必ず大切にします。
by You