親愛なるあなたへ
僕は、昔から「分かりやすい人」と呼ばれていました。
感情が顔に出てしまうので、「怒ってるんでしょ」とか「嬉しそうだね」と、すぐに見抜かれてしまいます。
恋愛では、いくら冷静に振る舞っているつもりでも、「○○ちゃんが好きなんでしょ」とすぐ話題の餌食にされた辛い経験もあります。
「恋愛事情」は、思春期の学生にとってトップシークレットになります。
ですから、自分の感情を表に出さないクールな友達がとっても羨ましかった。
当時、僕は手品師に憧れました。
手品師は人の目を欺くプロです。
テレビ番組で、トリックをバラすコーナーがあります。
どう考えても不可能な現象が、ネタばらしをすると「なぁ〜んだ」となります。
手品師がすごいのは、会場の空気を読む力です。
それは、スタジオにいる人だけではなくテレビを見ている視聴者全員の「呼吸を読む」ということです。
生の呼吸だけではなく、目に見えない電子化された空気の流れも感じとっているのです。
手品師は、みんなが必死になって見つめている中で、全員が呼吸を整える瞬間を見抜きます。
人間は、息を吐き切ると体がリラックスします。
リラックスするときが、人間がもっとも油断する瞬間です。
手品師は、そのタイミングに何食わぬ顔で手品の「タネ」をもっていくのです。
手品師は、クールでミステリアスで、何を考えているのか分からない魅力があります。
「分かりやすい人」は、一見、これとは全く正反対のように思えます。
人を騙すことは愚か、自分の全てが周囲にバレてしまうのではないか、という不安に襲われます。
「分かりやすさ」というのは、流動性を持ったエネルギーです。
手品師は、そのエネルギーを手のひらの上で動かしています。
冷徹で感情がないのではありません。
一方、「分かりやすい人」は体全体でエネルギーを動かします。
つまり、エネルギーを動かす座標の違いなのです。
手品師は、手のひらに「分かりやすさ」を凝縮していますから、ネタばらしでそのエネルギーを解放した瞬間に「なぁ〜んだ」となるワケです。
それに対し、「分かりやすい人」は体全体から「分かりやすさ」を発散しますから、相手にリアルタイムにそのエネルギーを伝えることができます。
「分かりやすさ」のエネルギーとは、「熱」「真剣度」のことです。
「分かりやすい人」は、相手に「本気」を伝える力を持っているのです。
世の中には、自分のことをちっとも分かってくれないと嘆く人がいるくらいですから、すごくラッキーなことなのです。
こんなに分かりやすい人間にしてくださってありがとうございます、と神様にお礼を言わなければなりません。
神様は、人間がお互いの誤解を解くための手段として、言葉によるコミュニケーションを与えてくださいました。
しかし、言葉だけでは自分の想いの全てを伝えることはできません。
自分の意志を相手にきちんと伝えるためには、言葉以外に「意志の波動」を相手にぶつけることです。
「本気」を伝える、ということです。
「分かりやすい人」は、実は、相手に自分の気持ちを伝える方法をマスターした、コミュニケーションの達人なのです。
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