絵にも、香りがあります。

親愛なるあなたへ

引越しの荷解きをしていたら、ずっと前に壁にかけてあった絵を発見しました。

部屋が少しでもお洒落になるようにと、社会人になって初めて独り暮らしをしたときに、隣の部屋の女性に頂いたものです。

ずっとタンスの肥やしになっていて、ホコリをかぶっていました。

その絵は、プロのバレエダンサーの写真の前で、バレエダンサーの小さな卵たちが遊んでいる構図の油絵です。

縦から横から裏からと、色々な方向からマジマジと見入ってしまいました。

久々に開いたアルバムや、奥から引っ張り出したマンガを読み始めてしまって、止まらない止まらない、のアレです。

引越しの荷造り、荷解きのときに誰もが経験する「あるある」ですね。

絵ってこんなに力があるんだなと感動に浸っていると、ふと、一度その絵を額縁から出してみたくなりました。

頂いてから、今まで一度も裏蓋を開けたことがないのです。

止め具をそっと開いて中身を出すと、フワっと、とても良い香りがしました。

石鹸とも香水ともつかない、不思議な香りです。

その絵に込められている熟成された魂の香りだ、と思いました。

さらに、一枚のキャンバスに描かれていると思っていた絵は、実は小さな絵に外枠を3枚ほど重ね付けして一つの作品に仕上がっていることが分かりました。

絵の原版は別の方が描かれたものでしたが、この作品は、持ち主による力作だったのですね。

絵をくださったその女性は、国際結婚をされてハワイに飛び立たれていきました。

今は、南国の楽園で幸せに暮らしているでしょう。

作品には、必ず、その人の味が出ます。

作者であるか消費者であるかは、関係ありません。

それは、その人が作品と一緒にどんな年月を経てきたか、ということです。

彼女は、日本で幸せの南風を感じながら、この絵と過ごして来たのですね。

「引っ越すから、好きなもの持ってっていいよぉ〜」

天真爛漫な彼女の姿を、思い出しました。

幸せの南風が運んできてくれた不思議な香りは、南国の楽園の日差しを、僕の心におすそ分けしてくれました。

by You