親愛なるあなたへ
僕は仕事でレストランのホールとキッチンを往復します。
ですから、キッチンの中の様子も見えます。
ホテルのキッチンの厳しい世界を目の当たりにします。
料理長が怒鳴っていました。
部下を部屋の角に追い詰めて胸ぐらをつかみ「お前のかわりは誰でもいる」と罵声を浴びせていました。
その行為自体はカッコ悪いです。
でも、僕は料理長が盛り付けする姿を見たり、出来上がった料理を眺める視線を見て「ああ、この人は本当に料理を愛しているんだな」と感じるのです。
胸ぐらをつかんで相手に殺気の嵐を浴びせていても、料理に目を向けた次の瞬間には、自分の子供を見つめる穏やかな眼差しになっているのです。
ホテルの高級レストランのプライドを越えた愛を、感じます。
料理長は僕がその愛を感じ取っていることを知っています。
言葉に出さなくても、お互いに分かるのです。
挨拶以外は言葉を交わさないし必要以上に近づくことはないけれども、ランナーとして料理の愛のコミュニケーションをしているのです。
料理長のその愛がなかったら、僕はただ料理をホールまで運ぶだけで終わっています。
料理長のおかげで、僕は運ぶちょっとの間にも料理の愛を大切にすることを学ぶことができたのです。
相手の胸ぐらをつかむ方ですが、敬意を払っています。
ダサい行為をカッコよく感じる人が、本物の人です。
パッと見ダサいけれど本気の人を、尊敬しよう。
by You